企業全体でコールセンターの「電話応対」を考える
1.電話応対はお客さま窓口だけではない
電話応対の品質向上を考える際に、通常はお客さま向けの窓口を対象とすることが多いのではないでしょうか。
この時の「お客さま」とは、個人だけではなく法人も含む自社のユーザーや新規の見込客などです。
弊社boosterでコンサルティング/トレーニング/品質調査などのサービスを提供する際も、お客さま向けの窓口を対象とする場合がほとんどです。ただし、一部の企業では、現在の課題や今後の戦略から、その企業内に存在する電話すべてを見直すこともあります。
今回は、ビル関連のサービスを提供されている企業様の事例をご紹介しましょう。この企業様からの最初のご相談内容は、「お客さま窓口としてコンタクトセンターを設置しているものの、トレーニングなどが不十分なので、一度、しっかりと基本を学ぶ機会を設けたい」というものでした。
コミュニケーターは未経験者を含めて自社で採用し、雇用形態はテンポラリーの契約と、ごく一般的な運営スタイルです。
ご相談をいただいた後に、弊社から数本のミステリーコールをおかけしたところ、ご担当者さまの話の通り、どこか不安が感じられる応対であり、やはり教育に課題があるのではないかと推察されました。
2.研修準備のヒアリング
研修実施が決定し、具体的なトレーニング内容を企画するにあたってのミーティングでは、まずは以下のような内容をヒアリングしています。
・コンタクトセンターの運営形態
・コンタクトセンターの主な入電内容、問い合わせ内容の難易度や受付本数
・コミュニケーターの電話応対に対する意識やモチベーション
・連携が必要な部門との関係性や具体的な引き継ぎ事項
・ご指摘やトラブルの発生頻度や内容
・モニタリング実施の有無
・コンタクトセンターの理想像
・コンタクトセンターが抱える現在の課題
・電話応対に関わらず、社内におけるお客さま応対への意識や取り組み 等
その結果、コンタクトセンターで完結できる事案はごく少数で、あらゆる部門との連携が必要なことが見えてきました(下図を参照のこと)。
たとえば、クライアントの窓口担当者からの問い合わせであれば、営業担当に取り次ぐ、人材募集への応募者への応対もコンタクトセンターがいったんは対応しますが、その後、採用部門の担当者が引き継ぐといった具合です。
また、扱う内容としては、ポジティブなものよりも、ネガティブな要素を含むものが圧倒的に多いこともわかりました。事前のミステリーコールにおいて、コミュニケーターの応対がどこか不安そうな印象だったのは、このあたりに原因があるのだと感じました。
3.研修対象を会社全体に広げる
ヒアリングの結果から、今回の研修では、対象をコンタクトセンターに限定するのではなく、電話応対が必要な部門のすべてを含めることに決定しました。
電話をするお客さまの立場から考えると、コンタクトセンターでいくら気持ちのよい応対を受けられたとしても、最後の応対がその企業の応対品質の印象を決めてしまうため、引き継いだ部門との会話に課題があっては、真の意味でのお客さま満足が得られないからです。
4.研修のゴール設定
今回のケースでは、コンタクトセンターのメンバーも応対品質への理解が深い訳ではありませんでしたが、その他の部門の担当者の方々は、日常の電話応対について考えたこともなかった人がほとんどでした。
そのため、研修を冒頭部分で、「自分の部門において、電話応対を磨くとどんないいことがありそうか」を話し合ってもらいました。それが、各部門、各担当者の学びのゴール(目標)です。こうして話し合うことで、自ら気づきを促し、意識を変えることができるのです。
終日研修では、概念を理解するだけではなく、明日からの応対品質がぐっと良くなるように、弊社オリジナルのスキルカードで重要な技術について学習し、その後、実践なさがらの数種類のスクリプトで繰り返し練習をしました。
受講生にとっては、新鮮な学びだったようで、吸収もよく、数時間でしっかりと感情や思いの感じられる話し方に変化することができました。
研修の最後には、必ず「本日の気づき」を共有しますが、一人のご担当者さまの印象深かったコメントをご紹介しましょう。要約すると、次のようなことです。
【うちでは新規採用が多く、日々、募集をかけています。人材募集の広告を作るときは、『女性が活躍している企業です』『アットホームな環境のなかで、一緒に働きましょう♪』などと,、ポジティブなコピーを一生懸命に考えて広告上に載せている。
しかし、いざ応募を検討している人が電話で問い合わせをしたときに、コンタクトセンターやその後の採用担当者との会話において、そのポジティブな雰囲気が感じられなければ、面接や入社意向まで至らないかもしれない。
同じように、現在の従業員の人たちは他の同業企業にも登録している可能性も高く、電話を含めた日常のコミュニケーションがうまく取れていないと、知らないうちに他に移ってしまうことだってあるかもしれない。つまり、1本の電話で得られるもの、失うものを考えさせられました】.....とのことでした。
その気づきは、まさに現在、その企業様で起こっていることかもしれません。そう捉えると、電話応対を磨くことによるビジネス全体へのメリットは計り知れない可能性があります。
5.最後に
いかがでしたでしょうか。たかが一本、されど一本の電話。
その1本の品質の差が、その企業のビジネス拡大の明暗を分けることに繋がるのです。
さらに怖いのは、品質の低い応対でお客さまが悪い印象を持ったとしても、そのお客さまはそのことを声に出すことなく離れていってしまうため、企業としてはそのことに気づきづらいのです。
今回、ご紹介をした企業様もそうですが、いざ改善することを考えると、会社全体で一気に品質を磨くことは、ハードルが高いことでしょう。
ですが、現在の電話応対をつぶさに振り返り、課題を整理するだけでも、様々な気づきが得られ、日々の簡単なことからでも改善をすることができるはずです。
今回の事例は多くの企業に当てはめて考えることができると思います。
お客さまからの電話を専門に受ける部門だけでなく、日常業務のなかで電話応対が存在する部門について、一度、お客さま目線で振り返ってみるのはいかがでしょうか。
参考になりましたか。
コールセンター・チーフコンサルタント 石橋由佳
サービスのご紹介
「感じのよい応対」を目標として、学習効率の高いカリキュラム。「わかる」を「できる」に変えるため、オリジナルのテキストやロールプレイングを取り入れた実践型の研修です。
boosterのコールセンター現状診断は、応対品質のみならず、運営面における課題も把握し、顧客満足と事業貢献を両立するコールセンターづくりをお手伝いします。